かつて、端午の節句が近づくと、街中の多くの家庭の庭で、色鮮やかなこいのぼりが風に揺れる様子が目に入ってきました。
しかし、最近ではさまざまな要因により、こいのぼりを見る機会が大幅に減少しています。
この記事では、昔ながらの風景からこいのぼりが少なくなっている、その理由を探り、この美しい日本の伝統文化が直面している多くの課題に焦点を当てます。
子どもの数の減少による人口の変化
こいのぼりが目につかなくなる一番の理由は、人口減少により子どもの数が減っていることにあります。
自然とこいのぼりを飾る家庭も減少します。戦後から現在にかけての出生数を見ると、
- 1947~49年(第1次ベビーブーム):約270万人
- 1973年(第2次ベビーブーム):約210万人
- 1984年:約150万人
- 2019年:約86万人
- 2023年:約76万人
このように、猛烈なスピードで少子化は進んでいて、1947~49年と2023年を比較すると、出生数が28%にも減少しています。
18歳未満の子どもがいる家庭が全国の約20%に過ぎない現状では、こいのぼりを飾る頻度も自然と低くなっています。
飾る場所の不足
現代では、特に都市部でのアパートやマンション暮らしが増え、庭にこいのぼりを飾るためのスペースが確保できない家庭が増えています。
以前は集合住宅のベランダに飾る家庭もありましたが、風による落下のリスクや騒音問題、日当たりや景観への影響などで、禁止されることが増えました。
飾りたくても飾れないという状況が、こいのぼりの数を減少させる一因になっています。
男の子の存在が公になることへの慎重さ
こいのぼりは、男の子の健康と成長を願う江戸時代からの風習で、これを飾ることで家に男の子がいることが周知されます。
一部では、これをプライバシーの問題と捉える人もいるようですが、その反応はやや過敏に感じられることもあります。
確かに、子ども用の自転車が見えたり、子どもの洋服が干してあるだけで、家に子どもがいることは容易に推測できます。
それにも関わらず、こいのぼりを控える傾向にあるのは、過剰なプライバシー保護の意識があるからでしょう。
家庭の幸せをアピールすることへの抵抗感と競争への警戒
近年、少子化の進行に加え、生涯未婚の人の割合も増加傾向にあり、将来的には男性の約3割が結婚しないと予想されています。
こいのぼりを飾る行為には、結婚し子どもに恵まれた幸福を示す意味が込められています。
この行為が独身者から批判されることはないものの、飾る人が周囲の目を気にして躊躇するのも理解できる話です。
また、こいのぼりにはさまざまな価格帯が存在し、人々はしばしば他人のこいのぼりと自分たちのものを価格面で比較してしまいます。
「あの家はどれほど高価なこいのぼりを飾っているのか」
「私たちのものはもっと価値がある!」
などという比較は社会的な現象として避けられません。
このような競争心理が苦手な人もおり、結果として最初からこいのぼりを飾ることを避ける選択をする人がいます。
こいのぼりを飾る文化が薄れている世代
こいのぼりを飾る習慣が家庭にない中で育った親が増えています。
狭い家でこいのぼりの経験がなかった人の中には、自分の子供には飾ってやりたいと願う人もいれば、逆に「こいのぼりはそんなに大事ではない」と考える人もいます。
しかし、全体的には後者の考えを持つ人が増えているようです。
屋内でのこいのぼり飾りが主流に
特に都市部のアパートやマンションに住む家庭では、目立たない室内で小さなこいのぼりを飾る傾向があります。
また、一軒家でもさまざまな理由から室内に飾る家庭が増えています。
室内用のこいのぼりが全体の出荷数の約3割を占めており、将来的には室内飾りが一般的になる可能性が高いと考えられます。
これにより、外からこいのぼりを見る機会が減るという残念な変化が起こっています。
家族構造の変化と祖父母の影響力の低下と片づけの労力
祖父母が孫への愛情を形にする一つの方法としてこいのぼりを購入してきましたが、家族構造の変化により、多くの家庭で子供と祖父母が別々に生活するようになりました。
このため、こいのぼりを提案する人が減り、結果的にこいのぼりを飾る家庭も少なくなっています。
さらに、こいのぼりの取り扱いに詳しい人が家族内にいないことも、減少の一因となっています。
さらに、理想的にはこいのぼりは雨が降ったり夜になったりした時にしまう必要がありますが、これがかなりの労力を要求します。
共働きが一般的な現代では、このような手間をかける余裕がない家庭が多いです。
かつては祖父母がこいのぼりの面倒を見てくれることもありましたが、核家族化によりその手助けが得られにくくなっています。
まとめ
こいのぼりが見られる機会が減少している背景には、社会的・文化的な変化が大きく関わっています。
人口の減少、住宅事情の変化、家庭構造の変化、経済的な困難、そして文化的な継承の希薄化が主な理由です。
これらの要因が複雑に絡み合い、かつては日本の春の風物詩であったこいのぼりを飾る家庭が少なくなっています。
伝統文化の継承と現代の生活様式とのバランスをどう取るかが、これからの日本にとっての課題の一つであると言えるでしょう。